前回(先月)は風に着目して春の特徴を述べた。今回は、春の気象の見逃せないもう一つの特徴である乾燥という側面に焦点を当てる。

人間が生活し、社会が活動していく上で、湿度は高くても低くても、困ったことになる。それらは、気象災害と言えるものから、そうでないものまで、実に多種多様である。湿度の高い日が続くと、農作物の生育に影響し、病害虫が発生しやすくなる。日常生活では、カビの発生や、洗濯物が乾かなくて困るといったことが起こる。一方、湿度の低い日が続くと、火災が発生しやすくなる。また、ウイルスの動きが活発になって、風邪やインフルエンザの流行につながる。喉や肌のトラブルの原因にもなる。静電気が発生しやすくなり、電子回路の誤動作、コピー機の紙詰まりを引き起こす。春は、このうち、特に湿度の低下に注意が必要な季節である。

乾燥の起源

乾燥の度合いは、湿度という気象要素によって表される。空気中に含まれ得る水蒸気の最大量は気温によって決まっており、飽和水蒸気量という。飽和水蒸気量は、気温が高いほど多い。この飽和水蒸気量に対して、実際に含まれている水蒸気量の割合を相対湿度という。単に湿度と言えば、通常は相対湿度をさす。相対湿度の単位は、%(パーセント)である。

湿度の低い状態が乾燥である。一般に、人間の生活には、50~60パーセントが快適な湿度とされ、それより湿度が下がると乾燥と呼ばれる。気象庁の予報用語で「乾燥」とは、湿度50パーセント未満をいう。

人間が通常活動する下部対流圏において、湿度は0~100パーセントの範囲で変化する。この振れ幅は、非常に大きいと言わなければならない。水蒸気のほとんど含まれない状態から、空気を絞れば水が滴りそうな状態まで、湿度に関して大気は非常に異なる様相を見せる。

大気中の水蒸気の大部分は、海面や地表面から蒸発したものである。このうち、海面からの蒸発が圧倒的に多い。すなわち、大気中の水蒸気の多くは、海から来ている。海面や地表面から蒸発した水蒸気は、風によって運ばれ、上昇して雲になり、降水となって大気から脱落し、海面や地表面に戻っていく。これを水循環(みずじゅんかん)という。地球の水循環の範囲は、海洋と陸域、それに大気圏の最下部の対流圏にほぼ限られている。

では、乾燥はどこから来るのであろうか。海から遠い大陸内部は、海から移動してくる水蒸気が少ししか届かず、海に近い場所に比べれば乾燥しやすいことは確かである。大陸から移動してくる空気は、乾いていることが多い。しかし、もっと近い乾燥の起源は、上空にある。一般に、大気中の水蒸気は、上空へ行けば行くほど減少する。水蒸気の起源が海面や地表面にあることを考えれば、それは当然である。そして、高度10数キロメートルの圏界面を超えて成層圏に行けば、そこは水蒸気がほとんどない湿度0パーセントの世界である。だから、下降気流によって大気が沈降(ちんこう)するメカニズムがあれば、水蒸気の少ない乾燥した空気が下部対流圏にもたらされることになる。

その場合の下降気流としては、積乱雲に伴う毎秒10メートル以上のダウンバースト(下降噴流)のような強さは必要なく、毎秒数センチメートル程度の下降成分があれば十分である。このように、ほとんど水平流ながら、わずかに下降成分をもつ緩やかな下降気流のある場所と言えば、それは一般に高気圧の圏内である。空気塊が下降すると、気圧が次第に高くなるので圧縮され、温度が上昇する(これを断熱昇温という)。しかし空気塊に含まれる水蒸気量は変わらないので、相対湿度が下がり、乾燥の度合いを増していく。そのようにして、上空由来のきわめて乾燥した空気が地表に達するとき、地表においては日最小湿度の極値を更新するほど低湿の状態に至ることがある。